戯画調査隊

アニメを観て思ったことをひたすら書いていきます。本について書くこともあるかも?

『ウマ娘 プリティーダービー』オープニング映像の細部の魅力

 『ウマ娘 プリティーダービー』のOP & ED映像を公式がアップしてくれました。

 そうそう、ノンテロップで観たかったんですよね。P.A.WORKSのアニメのおもしろさが凝縮された、バカなことを超真面目に描いた映像になっています。

 

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 一番の魅力は言うまでもなく走りの作画。競走馬の擬人化という奇抜な設定を差し置けば、ひたすら徒競走を描写しているだけのアニメーションです。にもかかわらず大変な迫力が感じられる映像になっています。特にサビ部分では1フレーズの中に激走シーンを1カットないし2カット平然とぶち込んでくるので、ただただ圧倒されてしまいます。

 

 またほんの一瞬小さく映るだけの描写にも、多数の工夫が凝らされています。何度も注意深く観て一時停止もしないと確認できないことだらけですが、それらの工夫に気づかずに観ている視聴者にも、無意識レベルで説得力と迫力を与えているものと思われます。

 以下、P.A.WORKSファンとしてこのオープニングの魅力を語っていきます。私が気づいたことほぼ全盛りで、細部の描写を中心に書きました。

 ちなみに私は競馬をほとんど観たことがなく、ネットで調べた情報だけで書いています。確認目的で実際の競馬の動画もいくつか観ましたが、こちらもとても迫力がありました。

 

matomame.jp

 

冒頭~タイトルロゴ

 まずオープニング冒頭は競馬場内を入り口から映して、本作ならではの舞台を提示するところからスタートします。緻密で鮮やかな背景と、大勢のモブの描写は、一目でP.A.作品とわかる明快な特徴です。

 背景はP.A.が作っているわけではありませんが、P.A.の作画力とモブを描く能力が、この背景のアニメでの使用を可能にしているのでしょう。キャラクターを常に崩さずしっかり動かすことができ、また引きの画面で大勢のモブをCGで動かすことができてこそ、背景とキャラが相まってリアルな空間を作ることができます。

 

 次に歌の入りとともに、舞台上で歌うスペシャルウィーク(以下、スペちゃん)を横から映すカット。歌に合わせた表情の動きが丁寧に描かれています。

 なぜライブをするのかは意味不明ですが、これだけ見栄えがいいのだから別にいいでしょ?といわんばかり。謎設定があるアニメでは、このように視聴者の疑問を力技でねじ伏せる描写がとても重要です。

 カメラがスペちゃんの横から正面に回りこむところも見事です。回り込みをちゃんと描けるアニメはそうそう多くありません。それを何気なく見せてしまうあたり、このオープニング映像全体に通じる蕩尽の姿勢を感じます。

 私としてはちょっと不満なのが、その後ズームアウトしたときに舞台上にスペちゃん一人しか立っていないことです。「日本一のウマ娘になりたい」というスペちゃんの目標どおりなのかもしれませんが、映像的にはちょっと寂しいです。

 

 その後はいわゆる「カメラが下からグイッとパンしてタイトルロゴがドーン!」。

 でもただのテンプレで終わらないのは、上空に上がったカメラが再び下を向くと、スペちゃんが育ってきた北海道の牧場が映っているということです。アニメオープニングお決まりのパンナップからのロゴ表示でありながら、舞台の転換を連続的に描いた表現にもなっているので、かえってリアリティを補強しています。ちなみにこの牧場は現実の競走馬の情報と照らすと、日高大洋牧場と思われます。

 

北海道のシーン~トレセン学園教室内のシーン

 次に牧場の道を走るスペちゃん。普通に走っているだけですが、画面奥から手間へと走ってくるところを何気なく描いているのがすごい。

 またスペちゃんが手間に来て横顔のアップになるときに、背景に手ブレボケが入ってから、次に背景が青空だけになるという嘘の表現をしています。さらっと虹フレアを入れてごまかしていますね。似たような表現がこの後も何度か使われていますが、背景のリアルさと嘘の表現を見事に両立しています。

 

 次のカットは一両編成の電車が、スペちゃんの故郷の駅から発車するところ。次のカットでスペちゃんの育ての親が映り、次にトレセン学園の登校シーン。この登校シーンでは少なくとも15人のキャラクターが動いています。電車と動くモブは、第1作『true tears』からCGモブをずっと磨き続けてきたP.A.のCG班のなせる業です。

 スペちゃんとエルコンドルパサーとのハイタッチも丁寧に描かれていますね。

 スペちゃんが手を上げつつ声をかけて、エルコンドルパサーが気づいて振り向くという一連の流れ、ハイタッチするときのしなうような関節の動き、手を横方向だけでなく上にも動かしてソフトに触れ合わせる感じ、手を離した後に丸く握りなおすところまで、引きの画ながら細やかに描かれています。

 

 次に教室内を前の扉付近から映したカットは、空間を広く使った描写になっています。

 左手前には机に寝そべるセイウンスカイ。右端からスペちゃんが画面に入ってきて、教室右後ろの席へ向かいつつセイウンスカイに挨拶し、気づいたセイウンスカイも手を挙げて返事をしてから、セイウンスカイは居眠りにつきます。それと並行してハルウララが教室の一番後ろを左から右へと元気に走ってきて、スペちゃんと合流して会釈しつつ席に着きます。キャラクター同士のやり取りが画面の端から端へと交わされる描写になっていて、教室の中にいろいろな個性のキャラクターがいることを窺わせるシーンです。

 

 次にウマ娘たちがジャージを着て、競技場でランニングするシーン。ウォッカダイワスカーレットが押し合っているのがかわいい。この2人は、トレーナーが映される次のカットの後、トレーニングルームでもまた競い合っています。2人の後ろにいるスペちゃんやサイレンススズカたちの動きも、細やかに描かれています。

 

 ゴールドシップのいたずら…失敗!

 そして次は本気のギャグシーン。

 カフェテリアでメジロマックイーンが文庫を読みつつコーヒーを嗜んでいたところに、後ろの席からゴールドシップメジロマックイーンの手元にある砂糖とマスタードを入れ替えるいたずらをします。メジロマックイーンは文庫に夢中で気づかずにマスタードを手に取ってしまいますが、握る力が強くてマスタードが噴き出し、ゴールドシップの目に命中。ゴールドシップは驚き仰け反って砂糖を落としてから、机に突っ伏して脚をバタバタさせて痛がります。メジロマックイーンは気づいて後ろを振り向くも、関心は薄そう。

 2人の人物といくつかの小物が絡んだ複雑な描写を、完璧に仕上げて笑いを取ってきます。

 

チーム・リギルの強敵感

 次に回るトウカイテイオーと、彼女を見て目を回すチーム・スピカの面々。どっちもかわいい。トウカイテイオーの髪の動きと、光の当たり方が見ものです。

 そしてサイレンススズカが振り返って走り出すところと、それを見てスペちゃんが憧れるシーンがあり、次に東条ハナ率いるチーム・リギルのメンバーが、並みいる強敵とばかりに映されます。

 漫画チックにポーズを決めるキャラ紹介シーンですが、ちゃんと指先や肩首の関節が動いたポーズ取りになっているところがすばらしい。

 

圧巻のサビ! ダイワスカーレットウォッカの激走

 そして本題はここから。圧巻のサビ30秒間です。

 まずゲートから18人のウマ娘たちが出走するカット。サビの入りはインパクトのある画面にするのが定番ですが、このカットはえらく説明的で印象は弱いです。ゲート脇に控える作業員たちまで映されているという、客観性の強い画面になっています。もちろん18人のウマ娘たちが走っているので、CGの物量は相当のものでしょう。

 このオープニングではサビの入りで主張する必要は無いように見えます。これからずっと怒涛の描写が続くので、その入りとしては印象控えめのほうがバランスがいいのです。

 

 次に大勢の観客が歓声を挙げ、紙ふぶきを舞わせるカット。

 そして2008年有馬記念ダイワスカーレットの疾走シーン。ここでは走りの作画を直球で見せつけてくれます。キャラの容姿を無視すれば、純粋たる徒競走のアニメーションです

 ダイワスカーレットを追う他のキャラたちがいる後方の背景を白飛びさせることで、ファンタジックな感覚を醸し出しています。またこの白飛びと連続させる形で集中線を描いています。リアルな走りの作画および背景と、漫画チックな迫力の表現とを、絶妙に共存させた描写になっています。

 

 次に2009年安田記念ウォッカ。前を塞ぐファリダットディープスカイの間を、縫うように抜き去る描写が痛快です。

 ここも細部で光っているところが3点あります。1点は抜かれるファリダットのまばたき。ウォッカに抜かれて呆気に取られている様子が伝わってきます。

 2点目は背景の木々の奥に、ビルが頭を覗かせているところ。これこそ、競技場という空間にリアリティを感じさせるポイントでしょう。

 広い平らな草地が木々に縁取られていて、その外にビルが見えるというのは、競技場ならではの景観です。カット後半のウォッカの横顔を映しているところでも、背景がかなりボケていますがビルはちゃんと描かれています。

 3点目は、ボケが強い背景の中にも、ゴール板がちゃんと描かれていること。

 その前の抜き去りシーンからウォッカの横顔への移り変わりのところで、背景とキャラクターを一瞬でフェードアウトさせるという大嘘をついています。これだけだとリアリティを損なってしまうのですが、後でゴール板というその場特有の物体を映すことで、リアリティを補っています。

 

ゴルシワープ!

 そしてこのオープニング最大の見せ場である、2012年皐月賞ゴールドシップによるゴボウ抜き。2カット目の、手前へと激走してくるゴールドシップの作画が最大の魅力ですが、それ以外の細部の描きこみにも見どころが満載です。

 まずウマ娘たちを後方から映した1カット目ですが、後ろを気にする2人のウマ娘の顔だけでなく、追いすがるゴールドシップの顔もほんの一瞬映ります。基本的には走りの作画で圧倒してくるシーンですが、気づくかどうかくらいの瞬間的にでも顔を見せることで、ドラマ性も加味しているのです。

 2カット目でもゴールドシップの追い抜きに、周囲のウマ娘たちが反応を示しています。向かって右手を走るメイショウカドマツと思われるウマ娘は、前を走っていて余裕→抜かれて唖然→表情を引き締め直す(この間1秒程度!)、というように細やかに変化が描かれています。

 

 背景にも要注目です。桜が咲いているのは実際の2012年皐月賞の状況どおりです。そして桜の奥には生垣があり、その間に門扉があり、奥には競馬場外の電柱も映っています。

 ゴールドシップの現実離れした激走シーンにも、現実の場所のディテールを欠かさずに描いているところが粋です。実際の競馬を見てみても、現実の競馬場で馬たちが走る光景に大変な迫力とロマンがあるのです。だからアニメも現実的に描いた上で迫力を発揮するというのが、誠実な描き方なのだと思います。

 

 その一方でリアリティと映像演出を巧妙に両立しているのが、陽炎の撮影効果です。

 画面中段の奥、柵の手前あたりの背景が、揺らぐように処理されています。日中の競技場なので陽炎が出るのはリアリティを感じさせます(ただし2012年皐月賞で実際に陽炎が出ていたのかは調べがつきませんでした)。それだけでなく、リアルな風景の中でキャラクターたちが走っているだけのこのシーンに、ファンタジックな迫力を与えているのがこの陽炎なのです。

 

トウカイテイオーメジロマックイーン

 次は1993年有馬記念トウカイテイオーの走駆。

 広角で斜めに傾いた構図で、トウカイテイオービワハヤヒデの脚の動きを目立たせつつ、後方のキャラクターたちも映しています。トウカイテイオーがただビワハヤヒデを抜くだけでなく、インコースににじり寄るように動いているのがいいですね。実際の1993年有馬記念の動画ではそのような動きは見て取れないのですが、アニメとしては勝負に懸ける熱意が感じられて見応えがあります。

 次の次のカットでトウカイテイオーが泣き笑いになるシーンは、その直前の思いつめた表情とでギャップが利いています。このオープニングは前半はコミカルでかわいいシーンが多く、サビ部分は迫力のある走りのシーンがメインで、このカットだけがストーリーのシリアスさを匂わせています。それだけにこの1秒強のカットに、感情の重みを凝縮して印象づけているのでしょう。

 

 雨の中でのメジロマックイーンのシーンは、走っている彼女の表情にクローズアップしています。

 見た目としては地味になりそうなところを、カメラの縦回転で迫力を出しています。このカメラの回転にどのような意図があるのかはわかりませんが、迫力があるということが第一で他に意味は求めなくてもいいのかもしれません。カメラが回転して上下反対になっているところでも、背景はしっかり描かれています。後方には追ってくるウマ娘たちがいて、カメラが回転して前を映してもそこに走る者は無し、ということが見て取れます。

 

サイレンススズカのIF

 サイレンススズカのシーン1カット目は、画面が上下に2分割されていて、上半分が引きで下半分が寄りという、テレビ放送を思わせる画面作りになっています。

 2カット目でサイレンススズカが加速するところは、脚や髪の動きの作画がすばらしい。後方を走る2人の走りも良く描かれています。蹴られた地面が抉れているのも芸が細かいです。

 3カット目はリアルな走りの作画で、右側の遠景もリアルに描きこまれている一方で、画面周辺が集中線で囲まれていて、左のコース柵も左下に引き伸ばされるように歪んでいます。疾走の迫力を感じさせる嘘を巧妙に盛り込んでいます。

 

 そして白一色の背景の中で、サイレンススズカにスペちゃんが追いついて併走するシーン。

 実際には実現しなかった組み合わせらしいので、空想的な画面になっているのでしょう。トウカイテイオーの泣き笑いのシーンもそうでしたが、ドラマをみせるカットでは走りのピッチが半減しています。メリハリが利いていてシーンがもつ意味の違いを読み取りやすくなっています。しかもテンポが半減してもなお、十分によく動いている作画であるといえます。

 

ラストは夢の世界へ?

 そしてスペちゃんとサイレンススズカが雲の上を走って府中の上空へと飛び出す、「ウマ娘が飛ぶわけ…飛んだぁー!」のカット。

 地味に脚が猛スピードで動いているのもさることがなら、飛び出す前の踏み切り動作をしっかり描いているところにも要注目です。

 

 ラスト1つ前のカットは、空を飛ぶスペちゃんとサイレンススズカの影が満月に映るという、コテコテのE.T.オマージュ。その空想の自分たちを校舎の窓から見上げるスペちゃんたちが映され、これがラストカット。

 オープニングの歌詞に「駆け抜けてゆこう 君だけの道を」とあるだけに、本作では夢に思い描いた自分たちを追い求めていく、というスタンスなのでしょう。